公益社団法人 全国経理教育協会 ZENKEI

ZENKEI TOPインタビュー

中国での全経簿記普及を目指して

全経の鈴木理事長が、さまざまな方にインタビューを行う「ZENKEI TOPインタビュー」。
今回は、2013年に全経の中国事務局を設立し、中国において「日式簿記といえば全経」と言われるようになるまでの軌跡を、中国事務局で責任者を務めていただいている上田氏、大連事務局社長の林琳氏と上海事務局の刘燕珞氏にお伺いしました。
 (林琳氏と刘燕珞氏はオンライン)
上田 泰弘さん
株式会社決断サポート 代表取締役/大連明決信息諮詢有限公司 董事長
林琳さん
大連事務局 社長
刘燕珞さん
上海事務局
  • 聞き手・全国経理教育協会 鈴木理事長(写真左)

 目次
  ・中国事務局立ち上げにまつわる苦労
  ・受験者が伸び始めた時期
  ・中国での電卓大会の反響
  ・受験者の簿記取得理由とは
  ・資格の活かし方と最近の受験者傾向
  ・アフターコロナ ―今後の展望


鈴木:全国経理教育協会の第十五代理事長を務めております、鈴木一樹と申します。本日はどうぞよろしくお願いいたします。

上田氏:全経簿記上級に合格して税理士として活動しつつ、全経の中国事務局としても動かせていただいております。

林琳氏:現在、大連事務局の社長を務めています。大学では会計学を学び、日本語を語学専攻していました。卒業後、日本語+会計というダブルメジャーを持っていたこともあり、優先的に日系企業で働いてきました。その中で会計の重要性を感じており、2010年に大連明決信息諮詢有限公司の設立手続きに携わり、2013年から全経の検定事業を中国で広めるために力を尽くしてきました。

刘燕珞氏:現在、上海事務局を担当しています。2010年に日本で決断サポートに入社し、2013年に中国へ戻り、大連明決信息諮詢有限公司に入って検定事業に携わっています。
日本の大学を卒業後、貿易関係の会社に勤め、その後翻訳・通訳の仕事をしてきました。ですが、専門用語に大変苦労したため、大学での専攻であった言語を深めるために簿記を勉強して取得しました。簿記の取得によって、学生たちのキャリアアップに役立ててもらえればと思っています。

中国事務局立ち上げにまつわる苦労

鈴木:中国事務局の立ち上げ時には、大変なご苦労があったかと存じます。どういった面が一番苦労されたでしょうか?

林琳氏:2013年に全経簿記を中国でスタートした際、営業に力を入れました。大連の開発区は日系企業が多いので、タクシーを利用して多くの企業を巡ってちらしを配り、説明会などもしました。2015~2019年の間には、日本語の学科がある約300の学校などを訪問しました。訪問先の数が多いのも大変ですし、出張費を抑える面でも苦労しました。安価なホテルに宿泊し、早朝・深夜の安いフライトを利用したりと経費について考え、節約していました。

刘燕珞氏: 簿記検定の講師養成講座を始めた時は、資料準備や場所探しでとても苦労しました。開催日が近づいているのに会場が決まらないということもありました。簿記の授業を行っていない場所を選んでいるので、協力してくれる知り合いもいない。遠方の知り合いのツテを頼ったりしながら、最終的には全国750名の先生たちが各地で開催する講師養成講座に参加する結果となりました。

鈴木:講師養成講座に参加された先生が、今は教える立場になっていらっしゃるのですね。

刘燕珞氏:そうです。参加した先生たちは、実際学校で生徒に教えていて、そこから受験生が増えていっている、という形です。

上田氏:中国事務局を立ち上げたばかりの頃は「全経って何?」という状況で、とにかく信頼を得るまでが大変でしたね。誰よりも「全経、全経」と言っている年がありました(笑)
今では、説明しなくても中国において「日式簿記といえば全経」が当たり前になりました。そう思うと、一番大変だったのは「我々は何者か」という証明だったかもしれません。

受験者数が伸び始めた時期

鈴木:中国で実際に検定試験の受験者が増えてきた、と感じられたのはどんなタイミングでしたでしょうか?

上田氏:最初の頃は日系企業などに営業していましたが、あまり芳しい反応が得られませんでした。その後、直接受験する層である学生や大学などへのアプローチをはじめ、講師養成講座を開始したことで、徐々に蒔いた種が実り始め、受験者数が伸びたと実感できたのは2017年頃のことでした。

鈴木:簿記のほかに、電卓計算能力検定や社会人常識マナー検定も開始されましたが、どのような反響があったでしょうか?

上田氏:電卓計算能力検定は簿記を普及するために始めました。社会人常識マナー検定は、学校のほうから要望があって始めましたが、思ったより問題が難しいという意見が多かったです。

刘燕珞氏:社会人常識マナー検定1級、2級、3級は難しいという学生の声がありました。その後、新しくJapan Basicが出来て、中国の学生にもフィットする難易度なので受験者は少しずつ増えてきました。マナーの講座を開いている学校は多いので、だいぶ浸透してきた印象です。

中国での電卓大会の反響

鈴木:中国でも電卓大会を開催されているとのことですが、反響はいかがでしょうか?

林琳氏:電卓大会は2013年から開催しました。最初は信用できる資格なのか、というのが先生方に浸透していなかったので、大連のスタッフたちが学校へ直接訪問して出場を促しました。4校36名が大会に参加し、秋には優勝校から5名の学生が日本大会に出場。参加者たちから評判は口コミで広がり、上位なら日本へ行けるということもあって、国際交流の場としても先生方から高い評価を得ました。大連市教育局からも電卓大会は高い評価を得て、大連市全体に宣伝してもらうことができました。全経のことも信頼のおける団体だと浸透してきて、参加者もかなり増えました。

鈴木:どのくらいの学生が参加されたんですか?

林琳氏:2014年、2015年は毎年1300人くらい参加しました。ですが、2年連続同じ強い学校が優勝したので、他の学校が日本へ行けるチャンスが巡ってこなくなってしまいました。途端に、学校の先生がやる気をなくしてしまい、2016年、2017年は受験者が1000人以下になってしまいました。そこで、1位だけでなく1~3位までの学校の生徒を5人から7人日本大会に行けるようにしました。その対策が功を奏し、また受験者は1000人以上になりました。
電卓大会のおかげで、教育局が無料の簿記講師養成講座の案内を出して100人くらい先生方が参加してくれました。中国において日本語学科のトップである修先生に会い、さらに各大学を回って無料の講師養成講座を薦めていきました。2014年から簿記講師養成講座をスタートし、2017年くらいから受講生が教える側として育って、学生を教えることもできるようになっていきました。

受験者の簿記取得理由とは

鈴木:検定の受験者は日系企業に就職を目指している学生さんが多いのでしょうか?あるいは、すでにお勤めの方が多いのでしょうか?

刘燕珞氏:受験者は学生のほうが多いです。学校の授業で簿記を学んでから、履歴書のアピールとして資格を取得する、という流れです。社会人の受験者は事務職、会計事務所、コンサル系の社員や経営者などがいます。
社会人の取得理由は、2級を取ったら給料がアップする、資格を取得しなければいけない、という会社からの条件として受ける人がほとんどです。

鈴木:日本だと検定試験はさまざまな団体がやっていますが、中国ではどのくらい検定試験があるのでしょうか?

上田氏:たくさんあります。我々が全経簿記を中国で始めようとしていた時は、検定試験を始めるのは国の許可制でした。許可が出るまでは大変な道のりで実質無理ともいえた。それで、たくさん海外から上陸しては許可が下りず消えていきましたね。日本の別団体の検定も、1回試験を実施して中国ではやらなくなった。それもあって、日本の検定ということで中国での信頼が最初は得られませんでした。その後、許可制ではなくなり、ずっと続けてきたことで全経簿記の信頼性と認知度はゆるぎないものになったと思います。
日系企業での評価メジャーとしては、日本語能力検定と全経簿記といっても過言ではない状況になりました。


資格の活かし方と最近の受験者傾向

鈴木:実際に簿記を取得して仕事に役立てている、というような声は届いているのでしょうか?

刘燕珞氏:学生たちは勉強を始める時に、簿記は本当に仕事に役立つのかという不安を持っています。でも、仕事を始めるともっとしっかり勉強しておけばよかった、という声をよく耳にします。中国の企業に就職する学生も、日本の資格だけれど会計の知識がある、というところを評価され、保険会社に就職できたという声もありました。

鈴木:資格取得が役立っているという声は大変光栄です。最近の受験者の傾向はどのような感じでしょう?

林琳氏:最近の受験者は落ち着いた感じです。3級から2級にランクアップするための受験をする学生が増えている印象ですね。

刘燕珞氏:学校の授業は3カ月くらいで簿記を教えていて、終わってすぐのタイミングだと学生も気持ちが熱いので受験します。でも、試験日がだいぶ先だと受験しないという学生も結構いる。今後は、授業が終わったタイミングで受験できるようIBTなどを取り入れることも視野にいれていければと思います。

アフターコロナ ― 今後の展望

鈴木:コロナの影響で、さまざまなことが停滞していた風潮がだいぶ落ち着いてきたように思います。今後の展望についてお聞かせください。

上田氏:中国ではコロナが落ち着いたのも日本より遅く、ようやくこれからというところです。読めないところもありますが、コロナ前に予測していた成長曲線に戻れるのはもう1年くらいかかるかと考えています。

林琳氏:今一番多い受験層は学生です。授業の後すぐのタイミングで受験するのが一番なので、受験タイミングを逃さないために、今後IBTなどで対応できたらと思っています。

上田氏:我々は試験会場を持っていません。各学校に試験会場をお願いして、その作業費を学校にお支払いしているので、試験会場である学校とIBTでの試験についてはバランスをどう取っていくか検討が必要だとも思っています。
IBT試験のメリットとしては、授業が終わったタイミングで試験日を待たずに受験ができる。国土が広い中国で、遠い試験会場までいかなければ受験できない、というような問題にも対応できる。学校とのコミュニケーションを密に取りながら、新しい展開の検討にも入っていかねばと考えています。 待つ姿勢では何事も成しえないので、今後は受験者数3000人、5000人を目指して攻める姿勢でいきたいと思っています。


(2023/12インタビュー)

【PDF】理事長中国事務局対談